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記事: Passing the baton : From Farm to Customer

Passing the baton : From Farm to Customer <Part1>

Passing the baton : From Farm to Customer

Part01 コーヒーでつなぐ、人と人 井川鉄平(用賀店店長)

ぼくにはコーヒーに人生を助けてもらった経験があります。だから、ぼくは日々、その恩返しがしたいと思いながらお店に立っています。バリスタとして淹れたコーヒーをたくさんのお客様に飲んでいただき、海の向こうの農園に還元する。その循環の輪をできるだけ大きくしていくことが、恩返しだと思っています。
ただ、同時に、その豆を買いつけた理由や焙煎の意図を知ることはできても、「コーヒーをつくる」という根源の部分を知ることができないという、その空白を埋められないことに、もどかしい思いを抱いていました。
2024年の訪問を前に、品質管理部の佐藤さんと一緒に現地にいく希望者が募られたとき、ぼくが真っ先に手を挙げたのはそんな想いからでした。先日、その際に買いつけた豆がついに日本に届き、これから、ぼくが旅のなかで感じることができた農園さんの苦労や想い、コーヒーのバックグラウンドにあるストーリーをお客様にお伝えし、そのコーヒーをよりよい意味をもった一杯としてお出しできることに、すごく興奮しています。
ぼくは、お店に立つバリスタは、農園とお客様、人と人をつなぐ橋渡しをする存在だと思っています。このコラムでは、そんな視点から、ぼくが現地で感じたことをお届けしてみたいと思います。

 

手仕事の結晶

グアテマラでは、GCF(GOOD COFFEE FARMS)の「My Farm 契約」というプロジェクトの一環としてハラパ県にあるナランハレス農園のひと区画をお借りして、自社ブランド豆「エル・コロリド」をつくり、毎年収穫・生産処理を自分たちの手でおこなっています。今年は残念ながら収穫時期の遅れによって本格的な作業はできませんでしたが、テスト用の豆のチェリーピッキングから、ひととおりの作業は体験することができました。

ぼくが人生で初めて訪れたコーヒー農園でもある、ナランハレス農園はひとことでいえば「崖」でした。イメージしていたよりもずっと過酷で、足元に積み重なった落ち葉で滑って崖下に落ちないように注意しながら、山中に点在しているさまざまな品種のコーヒーの木を見分け、熟している実を収穫しなければいけません。素人目には木の形状から品種を見分けるのはかなり難しく、そのうえ一本の枝のなかでもチェリーの状態は混在しているため、色をみながらひとつひとつ摘みとる必要があります。ふだん何気なく買っている150gの豆、あるいは一杯の抽出に使っている15gや20gの豆の一粒一粒は、そんな手仕事の結晶だったんです。手塩にかけて育てたコーヒーをなんとか美味しくしてほしい。きっと、生産者の方々はそういう気持ちをもっているはず。あらためて、自分が日々向きあっているコーヒー豆に詰まっているものの重さを感じる体験でした。

農園主で、GCFの支部長でもあるイサイアスさんは、まわりのみんなに活力を与えて引っ張ってゆくような、リーダーシップに溢れた方でした。一週間ほどの滞在のあいだはイサイアスさんの自宅に泊めていただいたのですが、毎食ご飯をつくってくださった奥さまのレティさんにお礼としてお花をプレゼントしたのもいい思い出です。

ウォッシングステーションでは、イサイアスさんの弟のエリアスさんが技術面の管理をしてくださり、ほかにも笑顔がかわいいアミルドさん、若いお兄さんのバイオンさん、見た目がちょっと怖いけど喋ると優しいオスカルさんなど、ひとりひとりが、朝から夜までずっとぼくらのテストバッジの準備をしてくれていました。たとえばコーヒーの乾燥も、均一に乾燥が進むように広大な面積にひろげられたチェリーをずっと攪拌しなければならないのですが、その作業をひと月以上ものあいだ、毎日やってくれていると思うと、本当に頭の下がる思いでした。
また、ウォッシングステーションがどこをみても綺麗だったことにも驚きました。自転車脱穀機もサビひとつなく、手入れが行き届いている様子でした。以前『Pneuma』で紹介されていたように、それらはGCFの取り組みによるものですが、じっさいにこの目で見てみると、彼らの情熱を感じとれるようでした。

今回のエル・コロリドは、嫌気性発酵 (アナエロビック・ファーメンテーション)をおこなう際に、塩を入れてみることにしました。基本的には佐藤さんが練ってくれたプランをもとに、しょっぱくならないように注意しながら、比率や入れ方などをエリアスさんと相談しながら決めていきました。
塩を入れたのは、日本の漬物から着想を得たチャレンジでもあります。自分でその作業を体験してみて思ったのは、どんなものでも、ものづくりの裏にある「意図」こそが大事なんだということです。いままでお客様に説明するときは単純に「アナエロビック・ファーメンテーション」といっていたけれど、その狙いもさまざまなはずです。じっさい、塩を使って発酵をおこなったコーヒーなんてないはずだとぼくは思っていたのですが、のちにエルサルバドルの農園をまわるなかで同じような試みをしている方もいらっしゃいました。生産国のみなさんも、よりよいものをつくりたい一心で、日々研究をされている。エル・コロリドにかんしては、その意図や狙いを自分ごととして話すことができるというのも、いまから楽しみなことのひとつです。

 

遠く離れた農園を、身近なものと考えるために

最後にもうひとつ、ナランハレス農園を歩いて感じたことのなかで、とくに強く印象に残っていることをお話しさせてください。それは、気候変動の問題の大きさです。
じつは本格的な収穫がおこなえなかったのは、雨が遅れたからなんです。グアテマラとエルサルバドルは雨季と乾季にわかれていて、雨季が短くなったり遅れたり、雨の量が減ったりするとコーヒーの生育に大きな影響がでてしまいます。先にも書いたような、一本の木のなかで真っ赤に熟している実と、まったく熟していない青い実が混在している状態は、 イサイアスさんによれば雨量が減少したことで光合成がうまくおこなえず、木が栄養がしっかりつくれなかったことが原因だそうです。
また、イサイアスさんが「この木をみて」と指した木は葉っぱがほとんど枯れ落ちていて、ひと目でサビ病にかかっていることがわかりました。知識としてサビ病のことは知っていても、じっさいに葉の裏がサビついたようになっている木をみて、それがときには山全体にひろがってしまうということを想像すると、とても恐ろしい気持ちになりました。

東京に住んでいるぼくたちは、地球温暖化や気候変動の影響を感じるのは難しいというか、知識としてわかってはいても、本当の意味で危機感をもっている人は多くないのではないかと思います。しかし、遠く離れた場所に住む人々はその影響を真っ先に受けてしまう。現地にいって自分の身体でそれを感じて、いまもとても胸が苦しい思いをしています。そのため、いまは自分にもできることをすこしでも行動に移そうと思っています。昨年につくったエル・コロリドや、GCFをはじめとしたグアテマラの豆を販売するときには、気候変動の問題にショックを受けたことや、それを変えてゆけるのはぼくらでもある、ということをお伝えするようになりました。

もちろんそのようなシビアな問題だけでなく、お客様にコーヒーを楽しんでいただくためにぼくが体験したことをできるだけ多くお話ししたいとも思っています。イサイアスさんやエリアスさんの人柄や、彼らがどれだけ楽しんで、誇りと愛情をもってコーヒーをつくっているか。ぼくが現地にいってもつことのできたエモーショナルなつながりを、お客様 にも一杯のコーヒーと一緒に手渡したい。
そして理想をいえば、最終的にはお客様と現地の方が直接つながってほしいと思っています。そのバトンをつなぐためにも、ここに書いてきたようなコーヒーのバックグラウンドをお客様にお伝えして、いただいたお客様の声を農園さんにお返ししたいと思っています。

オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE31より抜粋

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